エクソソームと微小小胞:ナノトラッキング法を用いた濃度、サイズ、表現型解析

このアプリケーションノートでは、ナノサイトのナノトラッキング法(NTA)を使用して、低濃度における微小小胞およびエクソソーム(細胞外小胞)の両方の粒子径と濃度を測定する方法について説明します。 蛍光標識と組み合わせて使用することにより、複雑な試料に含まれる特定タイプの粒子を選択的に測定し、解析することができます。

はじめに

このアプリケーションノートでは、ナノサイトのナノトラッキング法(NTA)を使用して、低濃度における微小小胞およびエクソソーム(細胞外小胞)の両方の粒子径と濃度を測定する方法について説明します。 この新規分野では現在、厳密に定義されていませんが、これら2種類のバイオ粒子は、粒子径の範囲と生合成により区別されています。 一般的に、微小小胞は直径が100 nm~1μmのもの、エクソソームは直径が30~100 nmのものと説明されています。 微小小胞は通常、細胞膜の小胞形成で発生しますが、エクソソームはエンドソームの多胞体から開口分泌により放出されます。 両方とも細胞シグナル伝達に関与していると見られ、様々なシグナルタンパク質、およびメッセンジャーRNAとマイクロRNAの分子を輸送しています。 アテローム性動脈硬化や冠状動脈疾患、血液疾患や炎症性疾患、糖尿病、がんなどの各種の疾患で、循環レベルが上昇することが分かっています。

これまで、エクソソームの研究は、適切な特性評価方法がなく限定されていました。 マルバーンのナノサイトシリーズは、実証済みの独特な技術によりこのニーズに応えるものです。 ナノトラッキング法(NTA)では、懸濁液中に含まれる直径50~1000 nmの特定のエクソソームと微小小胞を、直接および個別にリアルタイムで可視化します。 同時に、NTAは高解像の粒度分布プロファイルと濃度測定値を提供します。 この手法は使いやすく、高速で信頼性が高く、正確でコストパフォーマンスが高いため、既存の方法を補完する魅力的な手法です。 蛍光モードでの動作では、一定の励起波長を使用することにより、適切な標識を持つ粒子の特性評価と区別が可能です。

細胞外小胞の検出と濃度測定

動的光散乱(DLS)とNTAは両方とも、ナノ粒子のブラウン運動を測定し、この移動速度または拡散係数(Dt)と粒子径の関係はストークス - アインシュタインの式で表されます。

NTAでは、懸濁液中の粒子にレーザー光を当て、発生した散乱光をビデオカメラで撮影します。 粒子の拡散は、個々の粒子の2次元の位置変化を追跡することにより測定されます。 Dtが分かれば、粒子の流体力学的径を求めることができます。

次の画像は、ブラウン運動している粒子を示します。 初期の可視化テストで、大きい粒子や凝集体の存在が明らかになります(図1A)。 その後、可視化された小胞について、NTAソフトウェアが高解像の粒子単位の粒度分布、および粒子数(絶対個数濃度の観点で)を短時間で作成します(図1B)。

MRK1990-01_Fig_1a


図1*. 血小板を含まない希釈血漿試料。 A)ナノサイトの手法で生成した典型的な画像。 生成した画像により、試料に関する濃度や多分散性レベルなど一定の特徴が即座に分かります。 B)試料の粒度分布、および計算した元の濃度。 *出典:C Gardiner1, R Dragovic1, A Brooks1, D Tannetta1, D Redman2, P Harrison2, and I Sargent1 (2010) Nanoparticle Tracking Analysis for the Measurement and Characterisation of Cellular Microvesicles and Nanovesicles, Proc NVTH BSTH 2010.
1Nuffield Department of Obstetrics and Gynaecology, University of Oxford
2Oxford Haemophilia & Thrombosis Centre, Churchill Hospital , Oxford, UK
MRK1990-01_Fig_1b

代替技術

伝統的に、マイクロサイズの粒子分析に使用できる手法の増加に伴い、マイクロレベルおよびナノレベルの小胞の特性評価に多数の手法が使用されてきました。 その一部を示します。

  • フローサイトメトリー
  • 動的光散乱法(DLS)
  • 電子顕微鏡(EM)
  • 酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)

これらのうち、最も幅広く使用されているのはフローサイトメトリーです。 商業用フローサイトメトリーは通常、粒子径の検出下限(ポリスチレン製ビーズ用)が約300 nmであり、この位置で信号とベースラインノイズレベルを区別できなくなります。 蛍光標識を使用することでこの検出限界を広げることができますが、小さい粒子径では粒子径を正確に測定する能力が大幅に制限されます。 DLSもこの用途に使用されており、単分散試料の正確な粒子径情報を提供します。 NTAは、高解像の粒度分布が要求される場合に、DLSとは独立した追加情報を提供できます。 電子顕微鏡は、マイクロレベルおよびナノレベルの小胞の研究において有用なツールですが、高額の維持費、時間のかかる試料調製、低いスループット時間、および試料の整合性が試料調製に依存することが短所です。

測定の選択性

多くの場合、試料中に特定の単一直径または一定範囲の直径を持つ粒子が存在するかどうかを判定すれば十分ですが、試料中の特定の粒子群を同定し、区別することで付加価値を与えます。 ナノサイトの手法を使用すると、例えば抗体を介した蛍光標識をすることにより、そのような集団を選択的に解析できます。 この手法では、適切な光学フィルターを使用してバックグラウンドの不特定粒子を除外することにより、蛍光標識した抗体が結合する特定のナノ粒子の検出、解析を行うことができます。 各種の蛍光体を使用できますが、最良の結果を得るには、効率と安定性の高い量子ドット標識を使用すると有利です。

この手法を図2Aに示します。これは、適切な青色レーザーダイオード(405 nm)を取り付けたナノサイト装置により励起された量子ドットから放たれた蛍光を示すビデオの1フレームです。 これらの量子ドットは、合胞栄養芽層の微小小胞(STBM)に存在するターゲットのバイオマーカーに固有の抗体(NDOG II)の標識に使用されました。

これは、試料に存在する粒子の多くが、STBM特異的量子ドットNDOG II抗体で意図どおりかつ選択的に標識されたこと、また対照が非常に低いシグナルを意図どおりに示したことを示します。 これは、試料に存在する粒子の多くが、STBMに対応する量子ドットNDOG II抗体によって意図どおりかつ選択的に標識が付けられたこと、また対照が非常に低い信号を意図どおりに示したことを示します。

MRK1990-01_Fig_2a


図2*. A)抗体を介してSTBM粒子に付着した量子ドットの蛍光画像。 B)散乱光から得られた粒度分布。(青)、粒子に結合した抗体(赤)、粒子に結合していない(対照)抗体(緑)。 縦軸が個数濃度であることに注意してください。
MRK1990-01_Fig_2b

結論

NTAを使用すると、低濃度の微小小胞とエクソソームの両方について粒子径と濃度の測定ができ、蛍光標識と組み合わせると、複雑な試料に含まれる特定タイプの粒子を選択的に測定し、解析することができます。

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